朝おきるのがつらくて学校になかなか行くことができなかったり、
朝はきついが午後になるとだんだんと元気になっていき、
夜には調子がよくなるという経験は誰しもあると思います。
しかし、この症状が長く、しかもひどい場合は、とても深刻な問題になってきます。
学校に行けない分、授業も遅れ、また休めば休むほど、学校に行きづらくなり、ますます悪循環に陥ります。
もしかしたら、症状が深刻な場合、神経系の一種の病気かもしれません。
病気というか、「起立性調節障害」というものかもしれません。
この言葉を初めて聞いた人もいるかと思います。
私自身、この言葉を聞いたときは大学生の頃です。
事例とともに小学生~高校生がなりやすい起立性調節障害について、特徴と対処法について伝えます。
事例
起立性調節障害という言葉を聞いたのは大学生のときです。
話をさかのぼると私は大学生のときに家庭教師をしていました。
大学入学して、家庭教師会社に登録をして、すぐに中2の男の子の家庭教師が決まりました。
家庭教師会社からの話によると、そのご家庭はお母さんと中2の男の子と3年生になる男の子の3人で住んでいました。
中2の男の子は思春期を迎え、親に反抗をしたりするものの、まだまだあどけないわんぱくな男の子でした。
最初の間は家庭教師の時間になり、家に行くと、その男の子は家庭教師をすっぽかし、家に帰ってきていないということも多々ありました。
なので、私はすっぽかすと行動に対して、その勇気を褒めたり、怒ったりしたりもしていました。
そんな勉強嫌いな男の子でしたが、期間が経つにつれて、だんだんと打ち解けるようになりました。
家庭教師もちゃんとするようになり、自分を兄のように慕ってくれるのも分かっていました。
私自身も弟のようにかわいがり、宿題はあまりやってこないが、家庭教師のときは一生懸命勉強してくれるとても良い子でした。
私はお母さんとも良好な関係を結び、その子のお母さんやその子の相談も受けるようになり、信頼関係もできてきました。
その男の子も成長をし、中学3年生となったところで週一回だった家庭教師は週2回になり、ますます一緒に勉強をする時間も増えていきました。
志望校も決まり始め、中学三年生の冬休みに入り、いよいよ受験に向けてラストスパートをかけていました。
3学期が始まると後は受験に向けて、追い込み、受験が終われば卒業するだけというときに、問題が発生します。
その男の子が3学期に入ったとたんに学校に行かなくなったとお母さんが相談を受けるようになります。
そのことを聞いた私は、受験にさしかかり、受験が嫌になったり、学校が嫌になったのかなと思いました。
しかし、家庭教師のときは、一緒に楽しく勉強をしていたのです。
お母さんにさらに詳しく聞いてみると、朝起きるのがつらいとのことで、朝になるとものすごく元気がないようでした。
原因は夜ゲームなどをして夜更かしが原因とのことです。
お母さんもその男の子に「早く寝なさい。」や朝起きなかったら、ものすごい勢いで怒ったりするのですが、効き目が全くないとのことでした。
お母さんやその男の子はお互いに受験の焦りからか、二人はギクシャクした関係になりつつありました。
その経過を聞き、私自身もその男の子と学校に行かない件について話をしましたが、朝が起きれなく、夜は寝れないとのことの一点ばりでした。
お母さんもただ怠けているだけですよ。
と私に言って、私自身も本人が気合いを入れてどうにか朝頑張って起きるしかない!と思いましたし、
このままだったら、高校受験もできなくなるし、中学校最後の3学期も過ごせなくなるのは、絶対後悔すると思いその旨を伝えました。
そのときは本人はわかった!頑張ってみます!と言うのです。
そのときは本当に明日から頑張って起きようと思っているように見えましたが、
次の日、朝からお母さんと連絡を取ってみるとそれでも朝起きれず寝ているとのことでした。
そんなことが1週間続き、2週間、3週間、1ヶ月と続き、私自身もどうしたらいいのか本当に悩みました。
お母さんも本人に言ったら、すぐに喧嘩になり、もう言いたくないという感情で何度言っても伝わらないとのことでした。
そして、1ヶ月ぐらい経った日、男の子とお母さんとの仲も悪くなり、受験もさしせまった中で、私とその男の子と二人だけの空間にしてもらい、話しをました。
この状況を本人もどうにかしたいというのは、話の中でもわかり、続けてその男の子は少し言葉を濁しながら、涙ながらに言うのです。
「本当に自分でも朝起きたいけど起きられない。。」
この言葉を聞いたとき、私は嘘には聞こえなく、これは何かあるのかもしれないとだんだんと思うようになりました。
同時にお母さんも男の子と病院に行き、精神的に問題があるかもしれないとのことで、
精神科の病院に通うようになりました。
そこでの診断してもらい1週間後ぐらいして、診断結果が出ました。
お母さんから聞くと「起立性調節障害」とのことでした。
この言葉を私自身も初めて聞き、正直驚きを隠せませんでした。
何かおかしいとは思っていたが、起立性調節障害というものとは予想もしなかったのです。
起立性調節障害は自律神経に問題があり、中高生がかかりやすいものだというのです。
お母さんも本人も驚いた様子と同時に安堵も少しありました。
その男の子は本当に安心したと思います。
自分がただ怠けていると思われ、親からも言われ、学校の先生からも学校に早く来るようにだけ言われ、
受験の焦りもあるが、本当に朝起きようとしても起きることができない原因が分かったことで、
少し心が晴れたように表情から思えました。
しかし、診断がわかったからといって、終わりではありません。
そのままにしていても解決には至らないので、治療をしなくてはなりません。
私自身も起立性調節障害について調べ、大学のそういった障害についての専門の教授にも話を聞くが、徐々に治していくしかないとのことでした。
徐々に学校に行けるようにしていくしかないが、一向に朝起きることができないようで、
どうにかしてあげたいがどうしてあげることができないこの状況をもどかしくも感じていました。
しかし、診断結果がわかり、一つだけ変わったことがあったのです。
それは、親子関係は以前と比べ、随分とよくなっていたのです。
お母さんも私も朝起きられないのは根性が足りない、怠けているからだと思っていましたが、
そういったものではなく起立性調節障害と知り、その子の気持ちがわかるようになったのです。
これはその男の子にとても大きなことで、ずっと言えなかった悩みを正直に打ち明け、
自分の気持ちが分かってくれる人がいるだけでとても心強かったと思います。
結局、中学校3年生の3学期はほとんど学校に行けませんでした。
卒業式ぐらいは参加しようとしましたが、その日も起きることはできず、
後日、校長室で卒業証書授与をしました。
話は変わりますが、その男の子は中学校のときから格闘技をしたいとずっと言っていて、
何をするにもなかなか続かなかった子でしたが、総合格闘技を高校生のときからしはじめて、
大きな大会にも参加するようになったのです。
今ではその男の子は成人となり、立派な社会人になりました。
この教訓から私は以下のことを学びました。
・朝起きれないのは、「起立性調節障害」のことも視野に入れる。
・朝起きることができないのが深刻だったら、早めに病院に診断してもらう。
・気合いや根性だけでは、なんとかならないときもある。
・本人が一番つらいので、その気持ちを分かってあげることで、周りも本人も尊重できるようになる。
朝起きれなく、学校に行けず、しかし、午後になったら元気になり、夜は夜更かししてしまい、
また朝起きれなくなるという症状がお子さんに現れたら、その様子をしっかり観察し、子どもとしっかり向き合うようにしてください。
小学生~高校生がかかりやすいものです。
時間はかかりますが、しっかりと向き合うことで必ず治ります。
その向き合う時間が保護者さにとっても、本人にとってもかけがえのないものになります。
その時間を大切にし、できることから始めるといいです。
以下に起立性調節障害についてまとめましたので、ご参考ください。
起立性調節障害(OD)とは?
・たちくらみ、失神、朝起き不良、倦怠感、動悸、頭痛などの症状を伴い、思春期に好発する自律神経機能不全の一つです。
・重症なODになると、自律神経による循環調節(とくに上半身、脳への血流低下)が障害され日常生活が著しく損なわれ、長期に及ぶ不登校状態やひきこもりを起こし、学校生活やその後の社会復帰に大きな支障となることが明らかになっている。
・発症の早期から重症度に応じた適切な治療と家庭生活や学校生活における環境調整を行い、適正な対応を行うことが不可欠です。
・軽症例を含めると、小学生の約5%、中学生の約10%。重症は約1%。不登校の約3-4割にODを併存する。
・男:女1:1.5~2の割合でODにかかる。
・ODになりやすい年齢10~16歳
・約半数に遺伝傾向を認める
症状
・立ちくらみ、朝起床困難、気分不良、失神や失神様症状、頭痛など。症状は午前中に強く午後には軽減する傾向がある。
・症状は立位や座位で増強し、臥位にて軽減する。
・夜になると元気になり、スマホやテレビを楽しむことができるようになります。しかし重症では臥位でも倦怠感が強く起き上がれないこともあります。
・夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。
・中等症や重症の多くは倦怠感や立ちくらみなどの症状が強く、朝に起床困難があり遅刻や欠席をくり返していますが、保護者の多くは、子どもの症状を「怠け癖」や、ゲームやスマホへの耽溺、夜更かし、学校嫌いなどが原因だと考えて、叱責したり朝に無理やり起こそうとして、親子関係が悪化することが少なくありません。
・本人と保護者に対して、「ODは身体疾患である、「根性」や気持ちの持ちようだけでは治らない」と理解を促すことが重要です。
診断方法
①立ちくらみ
②失神
③気分不良
④朝起床困難
⑤頭痛
⑥腹痛
⑦動悸
⑧午前中に調子が悪く午後に回復する
⑨食欲不振
⑩車酔い
⑪顔色が悪い
などのうち、3つ以上、あるいは2つ以上でも症状が強ければ起立性調節障害を疑います。
治療方法
・坐位や臥位から起立するときには、頭位を下げてゆっくり起立する。
・静止状態の起立保持は、1-2分以上続けない。短時間での起立でも足をクロスする。
・水分摂取は1日1.5-2リットル、塩分を多めにとる。
・毎日30分程度の歩行を行い、筋力低下を防ぐ。
・眠くなくても就床が遅くならないようにする。
学校との連携
・学校関係者にODの理解を深めてもらい、OD児の受け入れ態勢を整える。
環境調整
・子どもの心理的ストレスを軽減することが最も重要です。保護者、学校関係者がODの発症機序を十分に理解し、医療機関―学校との連携を深め、全体で子どもを見守る体制を整えましょう。
経過
日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2〜3ヶ月で改善します。学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2〜3年以上を要します。
参考文献:日本小児心身医学会 http://www.jisinsin.jp/detail/01-tanaka.htm
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